用事

「ああ、すっぱりと、用事はすんじまった。大川で尻を洗ったような気もちッてなあおっ母、こん夜のことだろうな」
「わしゃ、なんだか、少しべえ名残が惜しいが」
「よしねえ、ぐちは」
「ああよすべえ、よすべえ」
「武蔵野ばかりにゃ月は照らねえ。どこの野末で、馬沓(まぐつ)を鍛(う)っても、おら、おめえの一人ぐらい、これから先はきっと安気に送らせるからな」
「そして、おぬしもこん度こそ、よい嫁をさがしての」
「やめたア、おらあ。当分、嫁は見あわせだ。おらあ、おっ母を、愛婦(いろおんな)だと思って暮すからいい」
「馬鹿べえいって、おふくろを、愛婦(いろおんな)と思えるかいの」
「思えるとも、おっ母にゃ、嘘がねえもの」
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 ――だがしかし、百は、ふところの紅い櫛(くし)を、じっと、肌で抱いていた。
「露が寒い、歩こうぜ。オヤ、嬰(あか)ン坊(ぼ)は、寝ちまったのか」
「罪がねえの……ごらんよ、この顔」
 憎んでいいのか、愛すべきか、百はこんがらかった気持のなかに、じっと、無心な顔を見ていたが、いきなり、母の手から抱き取って、
「おらが抱いてゆこう。――なんだ、軽いや、軽いや」